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ルソーが出会った奇跡的な光景 Miraculous Spectacle Rousseau Encountered

Posted on: 2011/02/08

 一枚の絵が、世界の見方、見え方を変えてしまうことがある。
 箱根のポーラ美術館で出会った、アンリ・ルソーの《夕暮れの眺め、ポワン・デュ・ジュール》(1886年、個人蔵)も、そんな一枚だった。この絵を見てから、やたら空の描写が気になって、他のルソーの作品に関しても空の表情ばかりに目がいってしまった。
 この作品はルソー(1844-1910)初期の風景画だ。この絵が描かれた19世紀末、この界隈にはレストランやダンスホールが建ち始め、パリ市民たちの憩いの場として人気を集めつつあった。セーヌ川を行き交う船舶、散策する人々、高架鉄橋を走る機関車…、こうした光景はこの近くにあった税関に勤めていたルソーにとっては日常的なものだったに違いない。

 この場所に対する彼の愛情は、背景に描かれた空の表情からひしひしと伝わってくる。特にサーモンピンク色に染まった雲がいい。悠揚迫らぬ雰囲気でふわふわと漂い、駘蕩と言うべき和みを絵全体に与えている。対岸に見えるなだらかな稜線も雲の一部のようで、雲海の中からこの奇跡的な風景が突然視界に現れたような錯覚を覚えてしまう。そこには神話的な時間が静かに流れている。
 ルソーが評価されたのは死後のことだから、おそらく当時の彼は日曜画家として‘いじられ’ながらも、自分の見た光景の美しさだけを信じてキャンバスに向き合っていたに違いない。しかし正規の美術教育を受けていない彼の作品は、わずかな理解者を除いて誰からも見向きもされなかった。

 この絵の解説には、「19世紀後半に大衆に浸透していたパノラマ絵画を参考にした可能性がある」と書いてあった。しかしその後のルソーは、このような複数の点景を鏤める構図をしだいに控えるようになり、より自己流に視点を絞りこんでいくようになったそうだ。
 おそらく後世、彼の作品が大きく評価されるようになったのは、その自己流の視点のユニークさからだろう。この作品以降の風景画にはルソーとおぼしき人物が描かれ、彼の心象風景が絵そのものに浸透していく。そして後期の作品に向かうにつれて、そうした人物の助けを借りずに視点の独創性を発揮することに成功し、誰も到達し得ない表現の高みにまで登りつめて行くのだ。それは、熱帯の幻想を描いた《ライオンのいるジャングル》(1904年、ポーラ美術館)などの代表作を見れば明らかだ。
 そうしたことは十分に理解できるだが、しかし僕は、この夕暮れを描いた作品にとても強く惹かれてしまうのだ。それは、そこにはルソーという作家の押しつけがましさがまるで感じられないからだ。傍観者としてただ呆然と立ち尽くしているルソーがそこにはいるだけだ。(ロニ蔵)

ポーラ美術館の「アンリ・ルソー パリの空の下で」展は、3月13日まで開催中。このブログでは《夕暮れの眺め、ポワン・デュ・ジュール》(1886年、個人蔵)をご紹介できませんでしたが、実際にご覧になりたい方はポーラ美術館に是非とも行ってみてください。

《ライオンのいるジャングル》(1904年、ポーラ美術館)

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