こんなEU、あんなEU~日常に見るヨーロッパ | Life in the EU

Archive for October 2011

一本の線が描かれる時間というのはほんの数秒のものだろうが、その繊細で憂いをふんだ線が生まれるには、想像を絶するような時間が必要だったに違いない…。

「ウィーン工房1903-1932」展(パナソニック電工汐留ミュージアム)で展示されていたフェリーチェ・リックス(1893-1967)の壁紙「そらまめ」の描線を眺めながら、ふとそんなことを思った。
とにかく実際に見ていただくのが一番いいのだが、その淡い色づかい、ポップな感覚、ふわふわとした浮遊感…、眺めているだけで思わずウキウキしてきてしまう。展覧会は初秋だったけれど、この「そらまめ」を見た瞬間、その周辺が春の爽やかな陽射しに包まれてしまった。

ウィーンの富裕な事業家の家に生まれたリックスは、ウィーン工芸学校でウィーン工房の創立者の一人であるヨーゼフ・ホフマンの教えを受ける。卒業後、ウィーン工房に入り、テキスタイル、陶芸、ガラス、七宝図案などの多くの作品を発表し、モダニズムの先駆者として活躍した。

そんなリックスの前に現われたのが、ウィーンに留学中の上野伊三郎(1992-1972)だった。京都の宮大工の家に生まれ東京で建築を学んだ上野は、建築を学ぶためホフマンの建築事務所に勤務していた。運命的な出会いをした2人は1925年に結婚し、翌年に活動拠点を京都に移した。上野は「上野建築事務所」を開設し、リックスはその美術工芸部の主任となった。上野リチと呼ばれたリックスは京都の伝統職人たちから伝統技法を学び、独自の意匠世界を切り開いていった。

戦後、二人は京都市立美術大学(現京都市立芸術大学)で教鞭をとり、日本の美術界に大きく貢献した。東京でリチの作品をご覧になりたい方は、日生劇場の地下レストラン「アクトレス」へどうぞ。金地に色鮮やかな花模様が描かれた彼女の壁紙を天井や壁面に見ることができる。これは襖紙に描かれたもので、日本の「障壁画」の技法と彼女のモダンデザインが融合したものだそうだ。(ロニ蔵)

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ある朝のテレビ番組で「子どものしつけに、ある程度の体罰は許されるか」というテーマで討論が行われていた。最近、しつけを理由に子どもを虐待する、あるいは過剰な体罰により子どもを死に至らしめる残虐な行為が目につく。しかし、被害者の両親は口をそろえて「体罰ではなくしつけのつもりだった」と答える。そもそも、しつけという理由で体罰は許されるのであろうか?そこが議論の焦点となっていた。

番組に参加していた育児専門家によると、答えは「No」だ。幼すぎてまだ言葉をうまく理解できない幼児であれ、聞き分けの悪い子どもであっても、言葉で説明して分からせることが重要である、と説いた。そして、決して体罰に頼ってはいけないということを強く主張していた。その理由として、子どもは体罰を受けることで「自分が悪いことをしたから親が手を上げたのだ」と納得するのではなく、ただ「痛い」という感覚しか覚えていないのだそうだ。「なぜ自分は親に叩かれたのか」その疑問だけが残り、また同じことを繰り返してしまう。

番組の中盤では、その「体罰」を法律で禁止している国が紹介されていた。福祉・教育分野で最先端をいく北欧の国、スウェーデンだ。1979年、スウェーデンでは世界に先駆けて体罰禁止の法律が生まれた。きっかけは、1970年代半ばに起こった事件だった。義理の父親による暴力で、子どもが殺害されたのだ。日本では、残念ながらこの手の事件はあとを絶たない。しかし、スウェーデンではこの事件をきっかけに、国全体が立ち上がり、政府の体罰を禁止する啓発キャンペーンやメディアでの討論が過熱。この事件が起こる前の1960年頃は、スウェーデンでも、体罰支持派が過半数以上と、体罰に肯定的な風潮があったが、この法律の制定をきっかけに、今では社会的にも「体罰はいかなる理由があっても許してはならない」という考えが根付いている。

しかし、法律ができただけで体罰がなくなるわけではもちろんない。行政や社会のサポートが行き届いているから、母親、父親の負担が軽減されるのだ。スウェーデンでは、「子どもは親が育てる」という感覚はなく、例えば親戚や友人といった親以外も巻き込んで「みんなで育てる」という意識が強い。また、育児専門家を家庭に訪問させるサービスがあり、誰でも子育てに関する悩み相談や、アドバイスを受けることができる。もちろん無料だし、訪問滞在時間の制限もない。さらに、スウェーデンの街を歩けば(この光景もたった30年前は大変珍しいものだったのだが)父親が乳母車を引いている風景をよく目にする。男性も育児に積極的なのだ。そのおかげで母親の負担も軽減され、女性の社会進出も今では当たり前。また、お店やカフェなどの公共の場でも、乳母車を引いた親が利用しやすいように、乳母車が通るスペースを意識した設計にするなど、細かい気配りが行き届いている。

とは言っても「日本とスウェーデンとはお国柄も違うから、日本でそれをやるのは無理」というのが日本人の本音かもしれない。実際子育てをする母親からは「スウェーデンの環境は理想だが、ここは日本。ありえない発想だ」。「叩かないようにしたいが、どうしても言うことを聞かないのでついつい手を上げてしまう」。「体罰でも愛情があれば問題ないのでは?」という意見が目立つ。

ただ、スウェーデンの「子どもはみんなで育てる」という意識は、実は昔の日本では当たり前だったことを忘れてはならない。少なくとも自分の父親、母親の時代は、年長者が下の子の面倒を見たり、ご近所さんが子どもを預かったりするのが常識であった。しかし、核家族化が進み、近所づきあいも減り、子育ての負担は両親に重くのしかかってしまっているが現状。スウェーデンの事例が理想というのであれば、もう一度古き良き時代の日本に立ち返ってみてもいいのかもしれない。(さくら)

[URL]
スウェーデンで浸透している「叩かない子育て」は日本で実現できるか?
http://www.kosodate.co.jp/miku/vol24/10_01.html

体罰を全面禁止している国一覧(総務省資料)
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/working-team/k_4/pdf/ss1.pdf

今年、平泉(岩手県)と小笠原諸島(東京都)がユネスコの世界遺産に登録され、日本中が歓喜に沸いた。まさに、日本にとって「世界遺産YEAR」といっても過言ではないだろう。それを意識したわけでもないのだが、今年の夏、ベルギーにある世界遺産「ブルージュ歴史地区」を訪ねてみた。

ブルージュ歴史地区は、首都ブリュッセルの北西に位置し、特急で1時間ほどの距離にある。旧市街には運河が張り巡らされ、その周囲をギルドハウス(ベルギー特有のギザギザ屋根の建物)やゴシック建築の歴史的建造物が囲み、まるで中世にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えるほどだ。

船上クルーズ。街歩きとはまた違った魅力を体験できる。

運河クルーズもさることながら、夜のブルージュはまた何とも感慨深い。雨に濡れた地面と霧がかった町並みが、その雰囲気をより一層引き立たせてくれる。
「街全体が美術館」と称される意味が分かるような気がする。

 ブルージュで有名なのが、ボビンレースと呼ばれるレース編み。北海につながる運河のおかげで、15世紀には織物産業による隆盛期を迎えた。その後、ブルージュは衰退の一途をたどるが、19世紀に以前の活気を取り戻し、今では国内外から観光客が訪れる魅力的な街に成長している。 

世界遺産に登録されると、街の景観が乱れ、本来の環境が破壊されてしまわないかと危惧してしまうが、こうやって注目を集めることでより一層素敵な土地へと成長できれば、世界遺産に登録される意義があると私は思う。いつか平泉と小笠原諸島へも足を運んでみたいものだ。(さくら)

夜のブルージュ。雨に濡れた街もまた趣がある。

[URL]
水の古都ブルージュ(ベルギー・フランダース政府観光局)
http://www.visitflanders.jp/what_to_do/travel/hitoritabi3/plan/brugge.html#plan1

Historic Centre of Brugge (UNESCOサイト)
http://whc.unesco.org/en/list/996

 前回スペインのアストゥリアス皇太子賞に触れましたが、当該財団HPで歴代の受賞者リストを眺めているうちに、触発されてネットで書籍をご購入~!!!してしまいました。今回はその本のお話をしたいと思います。

 なお、私事ですが、数か月前までいわゆる途上国に住んでいたため、インターネットで日本語の本を買い、数日後には手元に届けられるというサービスがかなりありがたくて嬉しくて仕方がない~!!!という状態にあります。洋書の古本も、数週間かかったものの、ニューヨークから日本の自宅まできちんと送ってくれました。すばらしい。円高だし。嬉々としてかなり活用させていただいています。

 さて、前置きが長くなりましたが、今回購入した書籍は、アラ・グゼリミアン編(中野真紀子 訳)『バレンボイム/サイード 音楽と社会』(みすず書房)です。ダニエル・バレンボイムとエドワード・W・サイードは、今年「フクシマの英雄」が受賞した平和部門賞の2002年度の受賞者です。本書には、世界中を飛び回って活躍する2人により、約5年間にわたって断続的に行われた対談のエッセンスが詰め込まれています。

 アルゼンチン生まれのロシア系ユダヤ人であるバレンボイムは、世界を代表するピアニスト・指揮者です。他方、サイードは、エルサレム生まれのキリスト教徒パレスチナ人であり、主著『オリエンタリズム』で知られる文学研究者、文学批評家です。

 このバックグラウンドの二人ですから、本書における対談も当然のことながら、ベートーベンやワーグナー、シェーンベルクからイーリアスとオデュッツセイア、シェイクスピアからプルーストにまで言及しながら進んでいきます。ヘナチョコ読者の私は、パッと見だけで、あーもうダメかも…と読むのをあきらめかけました。また、バレンボイムはユダヤ人、サイードはパレスチナ人であることから、二人の対話はまた当然のことながら、中東和平プロセスの進捗とも連携しており、ヘナチョコの私は、あーやっぱりダメかも…とさらなる追い打ちをかけられた気分になりました。さらには、地理的な言及についても、エジプト・カイロからアルゼンチン、ドイツ・ワイマール、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ、果てはアメリカ・ニューヨークにまで展開していきます。これは大変だ。¡Animo, Katy! (がんばれ、カティ!)

 が、読み進めていくと、意外に?そんなことはありませんでした。誤解を生むつもりは毛頭ありませんが。両者間の対談は、それらの個別具体を取り上げながら、何かもっと普遍的なことに迫ろうとするものとも読めたからでしょうか。

 本書において、二人は、作曲家や音楽作品、劇場、オーケストラ、作家や文学作品、また中東和平プロセスの進捗状況等について取り上げながら対話を重ね、互いの洞察を深めていきます。しかし、その原点には、芸術とは、権力とは、政治とは(また政治家とは)、アイデンティティ(自我)とは何であるかといった問いがあり、それに対する二人の答えは、個々の具体も、さらには「音楽と社会」をも超えて展開されていくこととなります。そこで、その大きな意図をつかむためには、個別具体に関する詳細な情報は「必ずしも」不可欠ではないかもしれない、というのが私の読了感です。もちろん、入れ替わり出てくる個別具体的な話題が全てわかれば、本書の理解もよほど深いものになるのだろうと思いますが…。理解度は別として、個人的にはかなり満足感の得られた本でした。

 この本の面白いところは、ヨーロッパの「音楽と社会」に関する対談が、ヨーロッパにはある意味帰属しない「外部者」である二人により、きわめて客観的に行われるというシチュエーションにあるでしょう。そのことが、独自の視点からヨーロッパの「音楽と社会」論を展開することを可能にしていると言え、またそれは、「音楽と社会」についてヨーロッパの域を超えた示唆を与えることにもつながっていると言えます。今から10年以上も前に行われた対談ですが、現在にまで響く何かが語られていることに感銘を受けました。…「何か」って何だ?と思った方は、ぜひ読んでみてください。

 サイードは、長年にわたる闘病生活の末、2003年に白血病のために亡くなりました。訃報に接したバレンボイムは、「心の友を失った」と言ったそうです。今年、2011年9月には、9.11アメリカ同時多発テロ事件が発生から10年を迎えるとともに、パレスチナ自治政府のアッバス議長が、国連安全保障理事会に対して国家としての国連加盟を正式に申請するというニュースも流れました。サイードがもし存命であったら、何と言ったでしょうね。   
(オラ!カティ)

 

● 記事に関するリンク先
アストゥリアス皇太子財団公式HP(スペイン語他)
http://www.fpa.es/

ひと月前に、長引くベルギーの組閣交渉について「組閣交渉の関係者がオランダ語・フランス語の言語対立問題に正面から取り組んでしまったことが『パンドラの箱』となってしまうか」という文を書いた(当該過去記事)。筆者はこれで組閣交渉がさらに長期化すると100パーセント予想していた。

ところが、なんとそれからまもなく組閣交渉の取りまとめ役のディ・ルポ(Elio Di Rupo)フランス語系社会党党首のイニシアティブの下、ブリュッセル・ハレ・フィルフォールデ(BHV)選挙区分割問題当該過去記事参照)が決着してしまった。
言語対立問題の代表格であるBHV選挙区分割問題は何十年来の「解決できない問題」であり、筆者がベルギーに住んでいた間も難攻不落ぶりを誇っていただけに、今回の決着のニュースを知ったときは、「え!解決したの?」と驚愕が何よりも先に来た。

今回BHV選挙区分割問題が決着したのは、同選挙区の分割を拒絶し続けてきたフランス語系政党側に対してオランダ語系政党が分割の「見返り」を提示し、それが仏語側に受け入れられたからである。組閣交渉での討議内容が一切非公開ということもあり、「見返り」の内容は上記の「決着報道」から半月以上たってから明らかになった。その内容は、フランス語系住民に十分に配慮したブリュッセル首都圏地域の改革などである。

今回の成功の理由は、組閣交渉の取りまとめ役がオランダ語系ではなくフランス語系政党の党首であったことである。過去の組閣交渉ではオランダ語系政党が主導権を握り、少数派のフランス語系政党が頑なな態度をとるのが典型パターンだった。今回、フランス語系社会党党首がイニシアティブをとったことで、フランス語側が主体的に問題に取り組んだのだった。

これに加え、「新フランドル同盟」というフランドル地域(オランダ語圏)最大の利益代表政党が、この夏に組閣交渉の場から去ったことが成功に結びついた。新フランドル同盟は今回(2010年6月)の連邦議会選挙で大勝したが、協議の進め方に抗議して新政権への不参加を表明した。このフランドル主義のハードライナー(強硬路線支持者)の退場により、オランダ語系とフランス語系双方の歩み寄りが実現しやすくなった。

言語対立問題という難題に一区切りをつけたディ・ルポ党首に残された最後の大仕事は、新政権の参加政党を決め、閣僚人事を行うことである。内閣不在期間は500日に届こうとしている。ベルギー有数の金融機関デクシアの解体に直面し、ベルギーの政治経済に強い不安を覚える国民も多いが、このタイミングで国民に強い期待感を抱かせることのできる新内閣が発足され、力強く船出することを願っている。
(じょきんぐまん)

経済広報センターと日独センターの共催シンポジウム(9月30日)「日本再建~変貌する国際関係への視点も含めて~」についての続き。

基調講演を行った植田隆子・国際基督教大学教授は、中国が台頭しアジアへの関心が高まる中、かつての日米欧の勢力関係は時代に即しているのかというテーマを提起した。アジア太平洋地域はアメリカの影響が大きいためEUが参入できていないという現状があるが、偶発的な衝突で危機が高まる可能性のあるアジア太平洋地域においては、日米欧の関係は秩序やルール作りに貢献できる点があるとされた。そのために、安全保障対話の場を常設する必要と、その機能を東京に置くことで地域の安定が図られるのではとの結論だった。最後にヘンリー・キッシンジャーが中国の存在を大戦前におけるドイツの台頭になぞらえたことを引用されて話を終わられた。今日の国際関係の類似が過去の世界史の中に見い出せるとするなら、今日との比較事例として大いに参考になるということか。

現場をよく知る方々からの冷静で客観的な意見や指摘が多く出されて、有意義なシンポジウムだったと感じた。(くるみ)

【リンク】
日独センター
http://www.jdzb.de/

9月30日に、経済広報センターと日独センターの共催でシンポジウム「日本再建~変貌する国際関係への視点も含めて~」が開催された。ロルフ・ヘンペルマン・ドイツ連邦議会議員、植田隆子・国際基督教大学教授による基調講演のほか、知日派のドイツ人ジャーナリストによるプレゼンやディスカッションで、日本の何が語られるのかというのが私の関心ごとだった。

エネルギー・経済政策専門のヘンペルマン議員からは、東日本大震災後の今、政府の素早い行動が必要との意見が出され、問題解決が早ければ早いほど、国際社会での評価が上がる点が強調された。また、復興のためには「連帯感」がキーとなる話がなされた。東西ドイツ統一にあたっては「連帯税」が導入され、東ドイツで使うお金を国民から回収してきた。ドイツはまた積極的にEU設立に関わってきた。戦後ドイツは国際市場やEUの枠組みによって復興が前進してきたため、ここでも「連帯」がキーワードだった。

東日本大震災を受けて、脱原発の路線をとったドイツは、2010年、15年、20年という5年ごとの区切りにおいて、どのくらい再生可能エネルギーに代替できるのかという課題が待っているという。

ジャーナリストの方々からは、今の日本における議論の必要性が強調された。ドイツにおける「環境問題」は、エネルギー業界における独占市場と政府の力関係のことまでを含んで民主主義に対する問いかけでもあるという。日本においても、一人ひとりが現状の問題点について考え、社会とコミュニケーションを図っていくこと、またメディアも議論のたたき台になる話題を提起していくべきだと指摘された。市民社会の代替機能を果たし得るソーシャルメディアによって伝統的なメディアにはチャンスとリスクが共存しているが、はたして未来はどのようになっていくのだろうか。(くるみ)

【リンク】
日独センター
http://www.jdzb.de/


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