こんなEU、あんなEU~日常に見るヨーロッパ | Life in the EU

Archive for November 14th, 2011

 さて、前々回のスペイン・アストゥリアス皇太子賞に続き、前回は2002年度の同賞受賞者であるダニエル・バレンボイムとエドワード・W・サイードに触れました。が、両人の受賞理由については言及しませんでしたので、今回はそこから始めたく思います。

 ダニエル・バレンボイムとエドワード・W・サイードは、2002年、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団(West-Eastern Divan Orchestra)を通じた活動が評価され、アストゥリアス皇太子賞平和部門賞を授与されました。同楽団は、バレンボイムとサイードにより設立されたユース・オーケストラです。楽団名の由来は、ドイツの詩人ゲーテの『西東詩集』(West-östlicher Divan, 1819)にあり、1999年のゲーテ生誕250年の記念日にあわせてドイツのワイマールで初公演が行われました。楽団員は、対立を続けるイスラエルとヨルダン・レバノン・シリアなどのアラブ諸国出身の若い音楽家達からなっており、もちろん前代未聞の取り組みでした。

 前回ピックアップした『音楽と社会』には、当時のイスラエル・パレスチナ情勢と音楽事情、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団結成までのプロセス、練習を開始した当時の楽団員の様子等についても述べられています。例えば、バレンボイム自身の逸話として、イスラエルにおける公演の際に、ユダヤ人のバレンボイムが、新ナチスとされるワーグナーの交響曲を指揮することに対し、聴衆から激しい拒絶が表明されたことが語られます。また、生い立ちや信条の異なる(時に相反する)団員間には、常に特定のテーマを避けた微妙なコミュニケーションのやりとりがあるとされ、そうしたやりとりが、機に応じて葛藤となって噴出することもあるものの、多くの場合は単なる会話の不成立に帰し、常態化していく様子も語られます。そんな若者たちを音楽で束ね、一つの作品を作り上げていく作業は並大抵のものではないでしょう。同書において、バレンボイムとサイードは、無知、即ち他者を知らないことに起因する無理解と不和がいかに解消されえるかについて希望を持って語ると同時に、厳然たる歴史的事実と錯綜した社会的背景を前に、相互不信の乗り越えがたさについても常に自覚的でありつづける必要を真摯に語っています。

 なお、同書によれば、両人は、イスラエル・パレスチナ問題に対して、同楽団の活動を通じて何か具体的な政治的貢献をすることを目的としていたわけではないようです。バレンボイムは、「何を演奏するかや、どこで演奏するかではなく、音楽を演奏するという行為における勇気だ。こういう種類の勇気が、本当に深遠な人道上の問題を解決するときに必要とされると僕は思う。」と言っています。他方、サイードは、元ドイツ大統領のヨハネス・ラウによるという、次の言葉を引用しています(孫引きですみません)。「愛国心とナショナリズムを取り違えてはいけません。愛国者とは自分の祖国を愛する人です。ナショナリストとは、他の人々の祖国を軽蔑する人です。」。極東島国の日本に住まう私たちにとっては、感覚的にもやや馴染みの薄いテーマかもしれませんが、多民族・多文化と国民国家の中で揉まれ続けた二人の賢人のこうした見解には、何か人を聞き入れさせるものがあると思います。(次回に続く)
(オラ!カティ)

 

【記事に関するリンク先】
●アストゥリアス皇太子財団公式HP(スペイン語他)
http://www.fpa.es/

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