Archive for September 22nd, 2011
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練馬区立美術館で、「磯江毅―グスタボ・イソエ」展を観てきた。
写実絵画の作家だと聞いていたのでそれほど期待はしていなかったが、実際に作品を観て大きく予想を裏切られた。写真のように描くのなら写真表現で十分ではないか…、などと思っていたが、磯江の写実絵画には写真では捉えることができない不思議なリアリズムが内包されていた。磯江のことを魔術的リアリズムの作家と呼ぶ人がいるが、その意味がよく分かった。現実と幻想が混じりあいながら、虚実の皮膜にあるリアリティが見事に描写されている。
例えば、白い皿に載ったイワシ。食べ終わった後なのだろうか、尾ひれがもぎ取られ、胴部も骨がむき出しになっている。口を開けて、虚空を見つめるイワシの目が何かを訴えかけるようでもある。白い皿についたシミや汚れのくすんだ感じがとてもリアルだ。ディテールが緻密に描かれた油彩画だが、これを絵画とも、写真とも呼んではいけないような気がする。
磯江毅は、19歳で西洋美術を学ぶためスペインに渡り、30年にわたる画業のほとんどをスペインで過ごした。24歳で開いた個展を機に、スペイン人が発音しやすいグスタボと改名。以降、スペインリアリズム絵画の作家として数多くの権威ある賞を受賞した。スペインの画家たちは磯江の作品に東洋的な簡潔さを感じたというが、確かにそこには、スペインの鮮烈な光というよりも、月夜の光に映し出されたような静謐さが漂っている。
2007年、磯江は53歳の若さで世を去った。彼の妻によると、「ますますものが見えてきた」と磯江が語った直後だったという。そんな彼の絵をもっと見たかった。なんとも残念なことである。
(ロニ蔵)